前例のない事を始めたいと思う時

「あちら側」と「こちら側」
新規技術の検討や新規市場への展開等、仕事において前例のない事を始める事に対し、周囲(特に上司)の壁は厚いと感じている人は多いのではないでしょうか。必要性が理解されず、取り組みが評価されない状況に苛立ち、悩んでいるケースも少なくないと思います。組織を出る選択肢を選べる人というのは少数でしょうし。
しかし、問題の原因を「あちら側」と捉える限り、おそらく状況は改善しないでしょう。なぜなら「あちら側」は、新規で前例の無い事に興味を示さなくても、何の影響も問題もないから。でも、問題が出てからでは遅い。少なくともあなたはそう思っているはず。
となると、必然的に「こちら側」の問題と捉え直す必要が出てきます。
検討内容をMECE的に挙げ、その中から出来るアプローチをリストアップし、夫々のクリティカルパスを探し、優先順位を付けるといった通常の仕事でも必要な一連の準備をしておく。突然その期が訪れた時に、いきなりスタート出来るレベルにしておく。
自分もそうでしたが、「あちら側」への不満が渦巻いている時には、そういう対応が出来ていない場合が多い。一連の準備を始めると、本来の業務のスキマ時間が埋め尽くされてしまうため、不満を持っている余裕も無くなりますし、「人事を尽くして天命を待つ」といった、少し悟ったような気持ちにすらなれます。
不満は期待の裏返し。いつか認めてくれる日が来るのではないか、という甘えが、結局自分の首を絞める事になってしまいます。逆風が順風になる日をモヤモヤしながら待ち望むより、逆風がほんの僅かでも凪ぐ瞬間を虎視眈々と狙う方が、実現の可能性も上がるし、精神衛生上も良いのではと。

説明の際に感じる困難さの理由
以前購読していた先端技術事業化メールマガジンのVol.240に以下の様な一節がありました(残念ながらサイト自体が閉鎖してしまい、ネット上ではバックナンバーを読む事ができませんが)

分かり難いと言われる最先端の科学技術を、「社会一般の人達に伝えよう」と試みるとき、どうしても概略化・簡素化した言葉で、丸めて話す必要が出てきます。そこで抜け落ちてしまうこと、実際にやっていることを越える範囲が入ってしまうことについて、どう折り合いを付けるか。研究者は今、相手に伝えるための工夫とまとめ方を問われています。

筆者は東北大学で産学連携のコーディネーターをされている高橋真木子特任准教授で、「こちら側(研究者)」の問題として、問題を「伝えるための工夫とまとめ方」と捉え直しています。
初めてこの文章を読んだ時、腑に落ちる思いがありました。説明の際に感じる困難さの理由を見事に言葉にしてくれた感じです。前例の無い事を始める必然性を伝える困難さと、社会一般の人達に最先端の科学技術を伝える困難さ。この二つは非常に似ていると感じます。必要なのは「伝えるための工夫とまとめ方」なのだな、とヒントを貰えました。これもまた前例の無い事を始めるための準備の一つのようです。